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第一章 秘密 第六話

Auteur: 夏目若葉
last update Dernière mise à jour: 2025-04-01 11:08:48

「こちらの要求は、たったひとつ。“ 秘密を守ること ” その一点のみです」

「秘密?」

「むずかしく言いましたが、あなたが誰にも他言しなければいいだけのことなのですよ」

「はぁ……」

「会社にも友人にも家族にも、です。できますか?」

 秘密にしたい内容はさっぱり見当もつかないけれど。

 とにかく、誰にも言ってほしくないことがあるらしい。

「あなたが秘密を守れるというならオファーをお受けしましょう。守れないというなら、この話はなかったことに」

「え?! 守ります! 絶対秘密にします!」

「あなたが約束を破って他言した場合、こちらも一方的に仕事の契約は反故にします」

 私を見つめる真剣な漆黒の瞳。油断したら吸い込まれてしまいそうだ。

「わかりました。私を信じてください」

 どんな秘密か知らないけれど、私が一切他言しなければいいのだ。

 ただそれだけでオファーを受けてもらえるのなら、こんなに容易いことはない。

 というか、そこまで厳重に守らなければいけない秘密って……。

「では、ついて来てください」

 言うが早いか宮田さんがおもむろに席を立つ。一体どこへ行くのだろう?

「え? どちらに?」

「最上に会わせます」

「本当ですか?!」

 最上梨子……本人に会える!

 どうやら私は第一関門を突破できたみたいだ。

 宮田さんは、私を最上さんに会わせてもいいと思ってくれたのだから。

 認められたと思うと嬉しすぎて、宮田さんが後ろを向いている隙に小さくガッツポーズをした。

 実際に会う彼女はどんな感じの女性なのだろう?

 綺麗な人かな? とてもキュートで可愛い人?

 つかのまの移動の間にあれやこれやと想像が膨らむ。

 宮田さんの後をついて行くと、彼は事務所の最奥にある正面の部屋をノックもせずにガチャリと開けた。

 広い部屋。それが第一印象だった。

 入ったところの正面に、大きなガラスのテーブルと高級そうな黒いソファーがどーんと置いてある。

 どちらもセンスがいい。

 というか、この部屋の空間全部のセンスがいい。

 ――― さすがは最上梨子。

 ここは彼女が実際に使っている部屋なのだろうか。

 仕事用のデスクも奥にある。入った瞬間、雰囲気的にアトリエのような感じがした。

 部屋に入るなり、宮田さんなにも言わずに大きなテーブルの上に乱雑に広げられていた書類を、黙々と手早く掻き集めた。

 しかも、そんなに乱暴に扱っていいのかと心配になるくらいのガサツさで、だ。

 だってそれは最上さんのものだろうから。

 しかしそれほどまでに、宮田さんは彼女から信頼されてるのだ。

 あ、もしかして、私に守ってほしい秘密って……

 宮田さんは最上さんの恋人だったりするのかな?

 ふたりは付き合っているけれど、そのことは絶対によそに漏らすな、とか?

 うん、考えられる。

 彼女はメディア嫌いなのだから、宮田さんとの関係を詮索されたくないのかも。

「すみません、片付いていなくて」

「あっ、いえいえ!」

 妄想に浸っているところに声をかけられ、思わず声が裏返る。

「ところで……最上さんは、どちらに?」

 愛想笑いをしながら部屋の中をキョロキョロと見回す。

 彼女は元々私と会うつもりなどなかったから、もしかしたら出かけてしまったのだろうか。

「いますよ、ここにね」

「……は?」

「ごめんなさい、騙しました」

「え?!」

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